着物の雑学④

このコーナーではきものにまつわる雑学をご紹介していきます。
きものから生まれたことわざや習慣は身のまわりにたくさん。
その意味を知り、ルーツをたどることで、きものがより身近な存在になるのではないでしょうか。

着物の雑学④
着物行事についての雑学、その他<1>

~着物行事についての雑学~

宮参り

赤ちゃんの生後1カ月頃の都合のいい日を選んで産土神に参拝します。正式には、男の子は生後31日目、女の子は32日目とする地域が多いです。子どもが生まれて初めて外で行う行事で、赤ちゃんには祝い着を着せます。男の子は熨斗目模様、女の子は友禅模様と、男女で着物の模様が違うことが特徴です。その他の参加、男性(父親や祖父)はスーツ、女性(母親や祖母)は留袖が正装となりますが、最近では略礼装ですることも多くなっています。特に母親は出産後、日にちが経っていないこともあり、必ずしも正装という決まりはありません。

祝着

「しゅうちゃく」と読み、喜び祝うこと、またうれしく思うこと、満足に思うことを意味します。喜びの度合いはかなり高いですが、最上級の喜びを表現するのに「祝着至極(しゅうちゃくしごく)に存じます」などと言うことがあります。時代劇などで、この上なくうれしく思うことを伝えるのに使います。

お七夜祝

子どもが生まれてから7日目の夜をお七夜といいます。これからの健やかな成長を願ってお祝いをします。昔は、7日を迎える前に亡くなる赤ちゃんも多く、無事育っていることを確認する大切な日でした。平安貴族の間では、7日までの間に出産初日や3日目などにもお祝いをしていたことが記録されています。
お七夜は、別名「名付け祝い(命名式)」とも呼ばれ、この日までに赤ちゃんの名前を決めてお披露目する日でもあります。赤ちゃんの服装は、季節に合った肌着に、最近ではベビードレスを着せることが多いです。

お食い初祝

生まれて100日~120日、歯が生え始める頃に「一生食べ物に困らないように」との願いを込めてご馳走を食べさせるまねをする行事です。まだ、固形物を口にすることができないため、まねにとどまります。地域によって、百日祝い、真魚初め、箸揃え(箸祝い、お箸初め)、歯固めなどと呼ばれることもあります。この時の赤ちゃんの服装は、色付きの小袖を着せるのが正装です。それまで、白い産着しか着ていなかった赤ちゃんに初めて色物の小袖を着せる「お色直し式」も兼ねるのが一般的です。

無垢

汚れがなく、純真なことを意味しますが、きものでは表と裏同色の布で仕立てたもののことをいいます。白無垢、色無垢、小紋無垢(関西では引返し下着)などがあり、白無垢は婚礼衣装に、色無垢は略礼装に使われることが多いです。また、無垢衣(むくえ)というと、袈裟のことを指します。

晴れ着

本来は、垢の付かない着物で、一般的には絹織物の後染めの着物や訪問着等のことをいいました。経済的に余裕のない場合は、洗い張りをして晴れの日を迎えたのです。晴れの日は、盆・正月・七五三・成人式・結婚式など、人生の大切な節目を祝う日のことで、神事や仏事を行う厳粛な場で、霊魂を鎮める意味がこめられていました。そのため、着るものにおいても、けがれない浄衣が選ばれたのです。 現在は、外出用に着る、改まった衣服の意味で使われます。

~その他<1>~

笠に着る

笠はスゲやカヤなどで編んだ雨や雪、日差しを防ぐためにかぶるもの。その笠を権力者の庇護、自分の権利の有様に見立て、力の弱いものが権勢者の後援を頼りにして威張る、また自分の権威を利用して他人に圧力をかけることを意味するようになりました。

側杖(そばづえ)を食う

喧嘩のそばにいて、振り回す杖で打たれることから、自分には関係のないことで思わぬ災難を受ける、いわゆるとばっちりを受けること。

うそつき

長襦袢を身頃と裾除け部分に分けたものをうそつき襦袢、または二部式襦袢といいます。一見、長襦袢のように見えますが、実際は一枚に仕立てていないため、「うそつき」というようになりました。さらに、袖も取り外せるようになったのが「大うそつき」。うそつき襦袢にさらに嘘を重ねてみましょうというものです。身頃が洗えるため、いつでも気持ちよく着ることができ、また着物の袖丈に合わせて袖を替えることができるため、それぞれの着物にピッタリ合わせることができます。

悉皆(しっかい)

今では「ひとつ残らず、ことごとく」を意味する悉皆とは、もともときものに関する相談を受ける専門家のことでした。きものを愛する人たちに少しでも長く大切に着てほしいとの願いから生まれ、丸洗い、シミ抜き、洗い張り、かけはぎ、染め替え、刺繍直し、仕立て直しなど、きものにまつわるお手入れ全般を手がけていました。京都で「京染悉皆」という文字を見かけることもありますが、今では「きものクリニック」などの名前に変わっているところが多いです。修復だけではなく、サイズに合ったきものを染めたり、古いきものから小物を作るリフォームなどを引き受けてくれる場合もあります。

断機の戒め(だんきのいましめ)

断機とは織りかけた機の糸を切ってしまうこと。途中で切ってしまうと着物にはならないことから、物事を途中でやめてしまうと何にもならないという戒めにつながりました。
孟子が修業の途中で家に帰った時、母親は織物を織っている最中でしたが、その糸を刀で断ち切り「学問を途中で打ち切ることは、このように織っていた布を切ってしまうようなもので、今まで織った布は何の役にも立たなくなる」と言って戒め、師匠のもとに帰らせた故事が語源となっています。

綺羅(きら)、星のごとく

綺羅とは、色々な模様を織り出した綾絹と平絹、紗、絽などのように生地の薄い絹のことをいいます。そこから転じて、美しい衣服のことをさすようになりました。キラキラと輝く星のことを綺羅星というのではなく、美しい衣装で星のように艶やかに輝いて見える、立派な人たちが居並ぶことを「綺羅、星のごとく」といいます。

箔(はく)が付く

金箔や銀箔を施した帯やきものはとても高価です。能装束の縫箔や摺箔なども「箔」のひとつで、刺繍のようなものであったり、糊で直接つけて模様を表現するなどの技法があります。このように箔を施すことできものが豪華になり貫禄がつくことから、「箔が付く」は値打ちが高くなる、評価が上がるという意味で使われるようになりました。

合縁奇縁(あいえんきえん)

生まれや育ち、そして性格も違う者同士がふとしたことをきっかけに、親しくなり、親友や恋人同士、夫婦になるという仏教思想に基づく言葉です。人と人との縁はあれこれ考えても、考えた通りになるものではなく、不思議な縁によるものであるということを意味します。「縁」は衣服や物の周辺部のことをいいます。

おおわらわ

「大童」と書き、戦国時代の武士の髪型が由来となっています。童(わらわ)は、子どもの束ねていない散らし髪を意味し、武士も戦場で戦う時には兜を脱いで、髪をふり乱し、子どもの散らし髪のようになることから、非常に忙しく働くことをいうようになりました。そこから派生して、力の限り奮闘、活躍することを意味します。

横紙(よこがみ)破り

横紙破りの紙は和紙のこと。和紙はすき目が縦に通っているため、縦に破りやすいが横には破りにくくなっています。それを無理に破るようなことをたとえ、無理を知りながら自分の考えを押し通そうとすること、またそのような人のことを「横紙破り」といいます。同じような意味の言葉に「横車を押す」があり、荷車も前後には動くが横に押しても進まないことが語源となっています。

綯い交ぜ(ないまぜ)

色や素材が違ったさまざまな糸を縒り合わせて1本の紐を作ることから、あれこれ混ぜ合わせて一つにまとめ上げることをいい、「虚実を綯い交ぜにして語る」など使います。また、歌舞伎では、時代や人物など異なった2つ以上の在来の筋を絡ませて一編の脚本に仕立てること、その脚本のことも「綯い交ぜ」と呼びます。

刑事(デカ)

デカという呼び方は、明治時代に生まれました。もともと、犯罪者たちが仲間うちで使った隠語でした。当時、制服を着ずに和服を着ていた刑事のことを「角袖巡査(かくそでじゅんさ)」と呼んでいましたが、カクソデを逆さにしてデソクカ、言いにくいため初めと終わりをとって省略したのが「デカ」でした。

洗い張り

着物を解きほどいて洗い、もう一度仕立て直すことをいいます。 水洗いをした後、ピンと張ってシワをのばすので「洗い張り」といいました。1~3年に一度これを行うことで、元のハリと光沢を取り戻し、染めた色も鮮やかに戻ってきます。柄によっては生地の前後左右を入れ替えたり、寸法を変えることも可能で、さまざまな方法で息を吹き返しながら丁寧に使われていました。

人の褌で相撲を取る

相撲をするには褌が必要ですが、自分の褌がないのに他人の褌を出させて使い、うまく立ち回ることから、他人のものを利用したり便乗して利益を得ることを意味するようになりました。「他人の褌で相撲を取る」ともいいます。人の物を利用して、ちゃっかり自分の目的に役立てるずるさをあざけって使います。

軍配

かつて、大将が軍の指揮に使った団扇のようなもので、「軍配うちわ」を略して軍配といいました。今では大相撲での行司に見られ、力士同士の呼吸を合わせることも一つの目的ですが、仕切り時間がいっぱいになり行司が軍配を構える(軍配を返す)、勝負に勝つことを示す(軍配が上がる)ことにも使われます。また、軍隊の配置や進軍退去の指導を意味することから「指図」の意味にもなりました。

莫大小(メリヤス)

靴下を意味するスペイン語「medias(メジアス)」を語源とし、靴下の素材として重宝されました。日本に伝わったのは16世紀後半~17世紀後半といわれ、「莫大小」は当て字。伸縮性がある素材のため、大きくも小さくもないという意味で使われるようになりました。音からの当て字で「目利安」や「女利安」などとも表記されました。

呉服

和服用織物(反物)の総称を「呉服」といいます。もともと、中国の呉の国から伝わった織り方によって織られた布のことをさし、「くれはとり(呉織)」と呼ばれたのが起源です。くれ=呉の国、はとり=機織を意味します。現在も使われている「服部(はっとり)」という名字は、はたおりに由来し、呉服を音読みするようになり「ごふく」と呼ばれるようになりました。

頭陀袋(ずだぶくろ)

何でも入るような、大きな袋のこと。「頭陀」とは、僧が衣食住の欲望を捨てて諸国を行脚して修行をすることをいいました。その際、経巻やお布施などを入れて首にかけて持ち歩いた袋のことを「頭陀袋」というようになりました。また、仏式葬儀の際、死者の首から提げる袋も頭陀袋といい、これには仏教修行の旅に出るという意味が含まれています。

懐手(ふところで)

懐とは着物の胸の内側部分のこと。懐手は見た目のままで、袖から手を出さずに懐に入れていることをいいます。そこから転じて、自分では何もせず人任せであること。「懐手したまま見過ごす」などと使います。

ハイカラ

丈が高い襟(high collar)が語源です。明治時代、西洋の文化や服装を好み、ハイカラ―のシャツを着たことから、西洋風なこと、真新しくしゃれていることを「ハイカラ」というようになりました。着物でハイカラというと、和洋を組み合わせた袴にブーツのスタイルが定番で、明治~大正時代にかけて女学生の間で流行しました。

浮世は衣装七分

世間では、外見が特に重んじられ、うわべだけで内容を判断されがちであるということ。七分は、10分の7の意味で、着ているもので7割ほどの評価が下されることから、このようにいわれるようになりました。英語でも、Good clothes open all doors.(立派な服はすべての扉を開く)という諺があり、見た目が重視されるのは世界共通ともいえます。

京の着倒れ、大阪の食い倒れ

「着倒れ」は、着るものにお金をかけすぎて財産をなくすこと。また、「食い倒れ」は飲食にお金をかけすぎて財産をなくすこと。衣服にお金をかける優雅な京都の気風と、飲食の質を重んじる商人のまち、大阪の気質を対比して使った言葉。このように、近隣の県や国などの対照的な違いを指したことわざは多くあります。

自縄自縛(じじょうじばく)

自分でより合わせた縄で自分自身を縛り、自由に動けなくなる意味から、自分の言動によって身動きがとれなくなり、立場が苦しくなることのたとえ。よく似た言葉に「自業自得」があります。

お冠

古代の貴族は、上役に反抗する際、わざと冠をずらしてかぶりました。そのことから、機嫌が悪いことや不満があることを「冠を曲げる」といいました。不機嫌なことをお冠と言うようになり、特に目上の人の様子を指して使います。

鎧袖一触(がいしゅういっしょく)

鎧の袖がわずかに触れただけで相手が即座に倒れることから、相手を簡単に打ち負かしてしまうたとえ。また、弱い敵にたやすく一撃を加えることのたとえ。

半畳を入れる

江戸時代、芝居小屋で敷く畳半分ほどの大きさのござのことを「半畳」といいました。入場料として半畳を買い、これを敷いて見物したのです。演技が気に入らなかった場合、これを投げ入れたことから他人の言動を茶化したり野次を飛ばしたりすることを「半畳を入れる」と言うようになりました。